地下足袋山中考 NO19

<森吉山スキー場の変遷A 山頂部スキー場開発の攻防その1>

山頂部開発が最大の争点になっているにも関わらす、全体構想を明かさず秘密裏に進めてきた山頂部スキー場計画が、朝日新聞東日本版に「ルポ85秘密裏に国有林の緑へ触手」の見出しで暴露された。計画は、県立自然公園第一種特別地域をまたぎ、阿仁・森吉両スキー場を山頂部連瀬スキー場(リフト5)で結ぶ山頂部直下(稚児平付近)に及ぶものであった▲1986(S61)116日、地元に「森吉山山頂部をスキー場開発から守る会」が発足した。守る会が主張した内容はきわめて分かりやすい。二点に要約すれば、@貴重なアオモリトドマツやコメツガ群落があり、自然公園では最も保護しなければならない第1種特別地域を含む山頂部の開発はやめてほしい。Aスキー場開発は、すでに伐採された1100m以下のブナ林跡地をスキー場に利用してほしいというもの。スキー場そのものには反対しないが、山頂部開発は反対するという立場で現地調査や関係機関への要請、シンポジューム、自然観察会など保護運動を展開した▲同年2月には、県、阿仁・森吉両町構成による森吉山スキー場開発計画調整委員会が発足し、@3月下旬に開催される県自然環境保護審議会に対して森吉山の利用計画の変更を諮問し、4月上旬に開かれる同審議会の全体審議で答申を求める。Aスキー場建設にゴーサインがでた場合、引き続き林野庁からレクレェーションの森の指定を受ける。B保安林解除の手順を踏んだうえ、来春の雪消えと同時に建設工事に着手することが合意された▲守る会も県生活環境部、秋田営林局に対し、@自然保護憲章と県自然保護条例と山頂部スキー場開発の整合性。A代替のできない貴重な遺産として開発が規制されている第一種特別地域を開発する理由。Bスキー場開発は、標高1100m以下の斜面を活用することでその規模は充分である。C環境アセスメントとスキー場開発計画のすべて公開すること。D山頂部の気象条件の厳しさからリフトの運転は不可能であること。E稼動日数の公開等について公開質問状と要望書が提出された▲役場を中心とする町の有力者の国土計画への熱い想いは、守る会への弾圧となって現れた。まず、守る会に公民館の使用を拒否した。当時の森吉町コミュニティーセンター館長の金与衛門氏からは「開発推進側が守る会の集会を壊すような動きがある。議論が紛糾した際に警察沙汰になる恐れがあると予想される催し物には施設を貸すことは出来ない」「町の公共施設を貸したことにより、国土計画が開発から手を引くようなキッカケを町自ら作ることは出来ない」という理由だった。また、集会を呼びかけたチラシの折り込は、森吉・阿仁の新聞販売店から拒否された。「国土計画が手を引く口実にされる」という救世主様のご機嫌を損ねることを恐れたことによるものだ。守る会の役員には嫌がらせの電話が相次いだが、チラシ配布「山頂部開発はやめて」や「自然保護と開発を考える集い」の開催、審議会への要請に加え秋田県弁護士会に「スキー場建設に伴う自然破壊の疑いに対する調査」を依頼した▲かくして329日に開催された県自然環境保全審議会自然保護部会に提出された環境アセスメントは、各新聞社が杜撰さを一斉報道。@植物群落の数が現状より大幅に少ない。調査委員が素人のため基本的なミスがあまりにも多い。A20年も前にアマチュアが残した文献をそのまま引用したり、貴重植物を40種以上も見落し。B動物についてもスキー場予定地とは関係ない小又峡上流のデータをそのまま使用。C支障木の伐採本数が不明。D最も大事な山頂部でのスキー稼動日数の気象データがわからない。E保護と利用の整合性が極めて不明瞭など、調査報告書の信頼性に対する疑問が続出した。山頂部開発については委員の間で賛否の意見が分かれたことから「事業計画は概ね良し、としながらも自然保護への厳しい配慮など、付帯条件をつけた答申案として本審議会に諮る」ことで意見が一致。環境アセスメントの杜撰さが指摘されたが、山頂部の利用計画の変更諮問案は条件付で了承された。

<メディア情報参考> (2010.11.7)<次号につづく>